悪性リンパ腫が伴う貧血(覚え書き)

悪性リンパ腫(リンパ肉腫) は、 抗がん剤 によく反応し治療効果も期待できる血液系の悪性腫瘍です。飼い主の方が喉や顎のあたりのしこりや腫れに気付き発見されることが多いようです。犬での発生頻度は10万頭中24頭であり、人の約2倍の発生率であると報告されています。好発年齢は5~12歳齢、ゴールデンレトリーバー、シェルティそしてシーズーに多く認められます。最近では、若齢(1~3歳齢)のダックスフントにも頻発しております。無治療の場合の平均生存期間は60~100日、すなわち約1~3ヵ月間です

抗がん剤に対する反応(寛解率)は犬で約80%、猫では70%であり、1年生存率は約30%、2年生存率は約10%です。(数字は文献などにより異なる)少数ではありますが長期生存例も報告されています。つまり,生存期間の中央値は12ヶ月,2年生存率は25%という壁を越えることができず,最新の報告でも,それよりも優れた成績は得られていない。したがって,CHOP-baseのプロトコールにL―アスパラギナーゼを加えた現在の治療法では限界が見えてきているようである。

最近話題になっている議論は,寛解導入後の長期の抗がん剤維持療法が必要かどうかという点である。いくつかの報告から,長期間維持療法を続けていても治療成績の向上は望めないという見解が一般的になってきている。維持療法によって経済的および時間的負担がかかり,また維持療法に用いた抗がん剤のために薬剤耐性が起きる可能性もある。治療を中止する時期については議論のあるところであるが,ウィスコンシン大学のVailらは治療開始後6ヶ月の時点で完全寛解の状態にあればすべての治療を中止することを推奨している(表3)。

化学療法によって寛解が得られた後,ほとんどの犬のリンパ腫は再発する。この再発においては腫瘍細胞の抗がん剤耐性獲得が深く関与しているものと考えられている。一般的には,最初の再発時には,寛解導入プロトコールの最初の治療(寛解導入に有効であったもの)に戻ることが推奨される。

症例によって大きく異なるが,再発時における寛解導入療法による反応率と反応期間は,最初の治療のときの約半分と考えられる。それが有効でなかった場合には,いわゆるレスキュー療法(表4)を行う。単剤としてレスキュー療法に用いられる薬剤には,アクチノマイシン―D,ミトキサントロン,アドリアマイシン(アドリアマイシンが寛解導入プロトコールに用いられていない場合),ロムスチン(CCNU)などがある。また,アドリアマイシン+ダカルバジン,シスプラチン+シトシンアラビノシド,MOPPなどの併用療法の報告もある。どのレスキュー療法が一般的に最も優れているとは言えず,ほとんどの治療法において,その反応率は40~50%,反応期間は1.5~2ヶ月といったところが標準のようである。

■犬のリンパ腫の化学療法への反応と生存期間における独立した予後因子としての貧血の評価:96症例(1993~2006)
Assessment of anemia as an independent predictor of response to chemotherapy and survival in dogs with lymphoma: 96 cases (1993-2006)
J Am Vet Med Assoc. December 2007;231(12):1836-42.
Andrew H Abbo, Michael D Lucroy

目的:貧血(Hct 37%以下)がリンパ腫の診断時に認められるか否かによって、化学療法を行っている犬の治療反応や生存期間における負の予後要因になるかを決定すること。

統計:回顧的症例検討。

動物:化学療法を行っていた96頭のリンパ腫の犬。

方法:シグナルメント、初回の血液検査データ、化学療法のプロトコール、臨床反応、そして死亡日が回顧的にリンパ腫の犬の医療記録から収集した。単変量、多変量、そして生存解析が初回の化学療法の反応と生存期間に対して貧血がもたらす影響を調べるために行われた。

結果:全体を通して、貧血でない犬(n = 56)は、貧血した犬(n =40)に比べ化学療法を行った際の完全寛解率が4倍であった。貧血した犬の中央生存期間(139日)は、貧血でない犬の中央生存期間(315日)に比べると有意に短いものであった。犬の多中心型リンパ腫(臨床ステージと化学療法のプロトコールの一致が見られた)に関する部分分析において、貧血のある犬(n
= 24)の中央生存期間(101日)は貧血がみられない犬(24; 284日)と比較すると有意に短かった。他の変数は生存期間と関連しなかった。

結論と臨床関連:今回の調査より、化学療法を行っているリンパ腫の犬において貧血は負の予後因子の一つであることが示された。リンパ腫の犬の貧血の改善による臨床結果に与える影響については更なる調査が必要になるであろう。


■犬リンパ腫の化学療法に続き半身放射線療法
Chemotherapy Followed by Half-Body Radiation Therapy for Canine Lymphoma
J Vet Intern Med 18[5]:703-709 Sep-Oct'04 Prospective Study 36 Refs
Laurel E. Williams, Jeffrey L. Johnson, Marlene L. Hauck, David M. Ruslander, G. Sylvester Price, and Donald E. Thrall

リンパ腫の治療で94頭の犬に、導入化学療法後、半身放射線療法を使用した。73頭(78%)は完全寛解を達成した。サブステージ(P=.011)と表現型(P=.015)を完全寛解率の指標として認めた。うち52頭に半身照射を行った。上半身と下半身に合計8.0Gy、3週間隔でコバルト-60光子連続4.0Gyの2分画照射を行った。それらの犬の最初の寛解の中央値は311日だった。最初の寛解の長さに対する唯一認められた指標は貧血だった(P=.024)。一般に半身照射後の中毒症は、骨髄抑制と胃腸症状で、めったに見られず軽度だった。31頭は再燃し、20頭は導入後、維持化学療法による治療を再開した。70頭(85%)のイヌは2回目の完全緩解を達成した。全52頭の総寛解中央値は486日だった。
この結果は、導入化学療法後の半身放射線照射が良く許容し、従来の化学療法のみのプロトコールに比べ緩解期間が延長するかもしれないと示唆するが、この延長は、臨床関連またはここに述べた方法の応用を正当化するに十分長いとはいえないかもしれない。(Sato訳)

■リンパ腫の犬において貧血は生存期間短縮に関連する
Anemia is associated with decreased survival time in dogs with lymphoma.
J Vet Intern Med. 2009 Jan-Feb;23(1):116-22.
A G Miller, P S Morley, S Rao, A C Avery, S E Lana, C S Olver

背景:腫瘍を持つ人の患者で貧血は一般的な合併症で、生存期間短縮およびクオリティオブライフの低下に関連している。

仮説:リンパ腫の犬における診断時の貧血の存在は、生存および寛解期間に負に関連するが、骨肉腫の犬ではそうではない。

動物:コロラド州立大学動物がんセンターに治療に来院したリンパ腫の犬84頭と骨肉腫の犬91頭

方法:遡及症例-コントロール研究。初回診察時の貧血の有無(PCV<40)を判定するため医療記録を再調査した。生存および寛解期間の中央値はKaplan-Meier product limit methodで判定し、貧血と生存性の関連はmultivariable Cox proportional hazard regression analysisで判定した。

結果:コントロール犬あるいは骨肉腫の犬よりも、癌関連貧血はリンパ腫の犬でより頻度が高かった。リンパ腫および貧血の犬は、貧血のない犬と比べ、生存期間が有意に短縮した。リンパ腫の犬の寛解期間に対する貧血の影響はなかった。骨肉腫の貧血した犬は、貧血していない骨肉腫の犬と比べ、生存あるいは寛解期間を短縮していなかった。

結論と臨床関連:初回診察時のリンパ腫と貧血の犬における生存期間の短縮は、重要な予後の意義を持つ。犬における癌関連貧血の理解は、それら患者におけるクオリティオブライフおよび生存期間を改善する新しい機会を提供するかもしれない。(Sato訳)
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